眼底にある網膜はカメラのフィルムに相当し、外からの光が角膜や水晶体、硝子体を通り、網膜に集光を感じています。網膜には約1億4000万個の視細胞という神経細胞が並んでいます。網膜で光が電気信号に変換され脳に伝えられ物をみています。黄斑部とは網膜の中心にある直径2mm程度の小さな部分の名称です。
黄斑の中心部分は中心窩と呼ばれ、光が当たる部位です。視細胞は感度の良い錐体と感度の悪い杆体に分類されます。錐体の個数は約650万個と数は少ないのですが、殆どが中心窩に存在し、視力の中心を担っています。これに対し杆体は中心窩の周囲に分布し、視力自体にはあまり関与していません。そのため黄斑部が障害されると、他の部分の網膜に異常がなくても視力が著しく低下します。網膜の下には網膜色素上皮という一層の細胞層があり、その下に脈絡膜という血管が豊富な組織があります。網膜が正しく機能するためには網膜下の網膜色素上皮やその下にある脈絡膜が正常に機能する必要があります。
加齢黄斑変性はその病態により萎縮型と滲出型の2種類に大きく分類されます。萎縮型は、黄斑の組織が加齢とともに萎縮する現象です。症状はゆっくりと進行し、急激に視力が低下することはありません。
滲出型加齢黄斑変性症では網膜の下にある脈絡膜から網膜に向かって、新生血管という異常な血管が発生する疾患です。新生血管は脆く破れやすいため、血液や血液中の水分や蛋白質が漏れやすく黄斑部の網膜下に貯留します。これが原因となって網膜が正しく機能しなくなり、視力が低下します。
日本では50歳以上の人口の約1.2%(80人に1人)に加齢黄斑変性症がみられ、年齢が高くなるにつれて割合も高くなります。また総患者数も年々増える傾向にあり、諸外国と比較して日本人では男性に多いことが特徴です。これは高齢者における男性の喫煙率が高いことが、原因であると考えられています。
加齢黄斑変性は年を重ねると誰にでも発症する可能性がありますが、発症のリスクを高めるのは加齢だけでなく、喫煙や紫外線なども関係していると報告されています。これらの要因を避けることは加齢黄斑変性症の発症を予防し、進行を遅らせると考えられています。
眼底の出血部やその周辺の血流の悪い部分(無血管野)にレーザーを当てて出血を止める治療で、前増殖期以上に対して行う治療です。外来通院で行うことができます。病状が軽ければ一度のレーザー照射ですみますが、重症の場合は何回もレーザーを照射する必要があります。糖尿病網膜症の最も基本で、最も効果的な治療法です。
網膜の腫れや網膜の下に液体が溜まると網膜が歪んでしまします。このような状態の網膜で物を見ると、物が歪んで見えます。黄斑部は障害されていても周辺部は障害されていませんので、中心部は歪んで見えても周辺部は正常に見えます。
黄斑部の網膜が更に障害されると、中心暗点という視野の中心が見えない状態になり、視力が低下します。視力低下が進行すると日常生活に支障を来すようになります。通常、視力低下は徐々に進行し治療をしなければ多くの患者様で視力が0.1以下に低下します。網膜下に大きな出血が起こると急激な著しい視力低下を生じます。萎縮型と滲出型を比較すると、滲出型で進行が早く、視力悪化も重症な症例が多く見受けられます。
加齢黄斑変性症の症状が進行すると色の判別がしづらくなります。
加齢黄斑変性を正しく診断するためには、眼底検査や造影検査などの詳しい検査が必要です。
他の目の病気と同様に視力検査は重要な検査です。加齢黄斑変性では視力の低下が起こります。
碁盤の目のような(方眼紙のような)図を見てもらい、格子のゆがみを調べる検査です。変視症を早くから検出することができます。簡便な検査ですので自宅でもできます(片眼ずつ検査する必要あり)。
眼科医が網膜の状態を詳しく観察する検査です。網膜の状態が詳しく分かり、出血や新生血管が分かります。記録のために眼底カメラで眼底写真に保存することがあります。
静脈から造影剤を注入した新生血管などの状態を詳しく調べる検査です。フルオレセイン造影検査とインドシアニングリーン造影検査の2種類の検査があります。いずれの造影検査も連続して何枚もの眼底写真を撮影したり、動画で連続して撮影したりします。
光干渉断層計(OCT)は網膜の断面を連続して撮影する装置です。OCTにより網膜やその下の新生血管などの状態を立体的に把握することができます。短時間で検査を行うことができ、造影剤を使わないので患者様に対する負担が少ないことが特徴です。また頻回に検査を行うことができます。
左眼)眼底写真
黄斑部断層写真
左眼)眼底写真
残念ながら萎縮型加齢黄斑変性症に対して治療は必要ありません。ただし、「滲出型」に移行して急激に視力が低下することがあるので、定期的な検診が必要です。
これに対し滲出型の加齢黄斑変性にはいくつかの治療法があります。治療の目的は脈絡膜新生血管の拡大を抑え退縮させ、視力を維持あるいは改善することです。視力が良くなることもありますが、視力が正常になることはほとんどありません。
脈絡膜新生血管の発生には血管内皮促進因子( vascular endothelial growth factor:VEGF )が関係していると考えられており、VEGFを阻害することにより脈絡膜新生血管を退縮させるのが目的です。
現在認可されているVEGF阻害薬にはルセンティス、アイリーア、ベオビュの3種類の薬があり、いずれも眼球内の硝子体腔に6週あるいは4週ごとに2~3回、注射します。その後は定期的に診察を行い、脈絡膜新生血管の活動性がみられれば、再度注射を施行します。次に述べる光線力学的療法と組み合わせて治療を行うこともあります。
硝子体注射前
硝子体注射後
黄斑部断層写真
硝子体注射前
黄斑部断層写真
硝子体注射後
硝子体注射前
硝子体注射後
黄斑部断層写真
硝子体注射前
黄斑部断層写真
硝子体注射後
ビスダインという光感受性物質を点滴し、その後に非常に弱い出力の専用のレーザーを病変に照射する治療法です。治療を行う前に造影検査を行い、脈絡膜新生血管をはじめとする病変を確認して、病変の大きさに合わせてレーザーの照射範囲を決定します。治療後48時間は強い光に当たることに注意する必要があります。治療後48時間以内に強い光に当たると光過敏症などの合併症が起こることがあるので注意が必要です。光線力学的療法は必ずしも一度で終了するとは限りません。治療のためには専用のレーザー装置が必要であり、眼科PDTの認定医が治療を行う必要があります。
脈絡膜新生血管が黄斑の中心から離れた場所にある場合には、強い出力のレーザー光線で病変を凝固し、破壊する場合があります。病変が黄斑の中心付近に及んでいる場合に光凝固を施行すると黄斑も障害され著しい視力低下、視野欠損の原因になりますので、光凝固を行うことはほとんどありません。
以前は脈絡膜新生血管の抜去や、黄斑を移動させる硝子体手術が行われていました。しかし手術後の視力が殆どの症例で改善せず、最近では光線力学的療法やVEGF阻害薬の治療が有用なため、現在は行われなくなりました。
喫煙している方は危険性が高いことが分かっています。喫煙している方には禁煙をお勧めします。
ビタミンC、ビタミンE、βカロチン、亜鉛などを含んだサプリメントを服用すると加齢黄斑変性の発症を抑えられることが分かっています。加齢黄斑変性の発症は少なくなりますが、完全に抑えることはできません。加齢黄斑変性になっていない人にも勧められますが、一方の目に加齢黄斑変性が発症した人にはサプリメントの内服をお勧めします。
ほうれん草など緑黄色野菜に多く含まれているルテインという成分の摂取量が少ないと、加齢黄斑変性を発症しやすいという関連性が指摘されています。緑黄色野菜はサプリメントと同様に加齢黄斑変性の発症を抑制すると考えられています。肉中心の食事より魚中心の食事の方が加齢黄斑変性症発症のためには好ましいようです。
目や身体全体の健康維持のためにも、普段から緑黄色野菜を十分にとり、バランスのとれた食生活を心掛けましょう。